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理論を学び実践することで自信を裏付ける
トレーディングカードゲーム(TCG)や将棋、囲碁、麻雀など、ポーカー同様に高い思考能力を用いて競われる「マインドスポーツ」。各分野プロプレイヤーが、日々どんな練習をし、いかにメンタルと技術を鍛えようとしているのかを探る連載「マインド加圧トレーニング」。 今回はプロのポーカープレイヤーとして活躍する堀内正人氏に話を伺った。プロの麻雀士として自身のキャリアをスタートさせた彼は現在、マカオを拠点に活動を続ける。(※コロナの影響で一時帰国中)ジャンルを跨ぎ、マインドスポーツと長年向き合い続ける強靭さの根底には、彼自身の「強くなるためのルーティン」が生きている。
――堀内さんは競技麻雀のビッグタイトルである十段位戦で優勝するなど、プロ雀士として活動していらっしゃいましたが、いつからポーカーの世界に入られたのでしょうか。
堀内正人(以下、堀内) 2015年にテキサスホールデム・ポーカーに魅了されました。コロナ前はマカオを拠点に毎日ポーカーをプレイしていまして、現在は勝つことによって生計を立てるプロのポーカープレイヤーです。麻雀のプロとして9年、ポーカーでは4年と、長年にわたって勝負の世界で生きています。
――まず、堀内さんの「技術の磨き方」についてお話を伺えればと思います。ポーカーを初めた当初、強くなるためにどういったインプットをされていたのでしょうか。
堀内 最初は何から学んでいけばいいのかわかりませんでしたが、色々な人のSNSやブログ、記事を読み漁って座学を行い、実践に役立てていきました。ただ、なんでもがむしゃらに吸収する訳ではなくて。インプットをする際、僕は2つのことを意識していました。
まずは「情報を取捨選択すること」です。ポーカーに限らず物事を始める時、最初に選択したものが誤っていると、軌道修正までに膨大な時間がかかって大変です。最悪、誤ったまま気づかないケースもあります。なので、今回の僕の話も鵜呑みにせずに自分でよく判断し、もし内容がズレていると感じたら参考にしないでください。(笑)
もう一つは「成長に占める割合が大きいものから学習する」ということ。頻出するスポット、つまりゲーム中によく出くわす場面から学ぶのが一番効率が良いと思います。ポーカーで言うと、最初はプリフロップの部分を重点的に学習し、その次にフロップのアクションを覚えていきました。
――なるほど。効率的に情報を得ていく、というのはマインドスポーツ全般で実践できるトレーニングのように思います。インプットのために、今でも追っている情報源はありますか?
堀内 強いプレイヤーたちの発言や局面の様子は参考にしています。座学を始めた当初、強豪プレイヤーが勝つために共通する戦略が3つあることに気づきました。
1つ目は「GTO(Game Theory Optimal/ゲーム理論最適戦略)」。ポーカーには、相手がどんな戦略をとっても自分が搾取されないような「最適戦略」が存在します。強いプレイヤーは最適戦略への道筋を組み立て、局面で実践しています。
僕もマカオでポーカーで生計を立てていた時には、1日8〜10時間カジノでプレイをしてから、帰宅後に30分〜1時間ほど、その日の気になった局面について最適戦略を取れていたかなどを振り返るようにしています。
2つ目が「エクスプロイト」。ポーカーには最適戦略が存在する一方、ほとんどのプレイヤーの戦略は偏っていて、どこかに弱点があります。こうした対戦相手の弱点を理解し効率的に搾取する戦略が「エクスプロイト」となります。
そして、3つ目が「相手のエクイティを奪うこと」。エクイティとは"期待される利益"のような意味合いです。自分が積極的にベットやレイズをすることによって、対戦相手が降りれば勝利が確定します。ショーダウンまで進めれば勝てていたはずのハンドを放棄させるプレイングが重要になります。
集中力維持のため、競技中には反省しない
――しかし、こういった戦略を実践するには冷静さが不可欠かと思います。堀内さんはメンタル維持についてどう対策を練られていますか?
堀内 確かにどんなに学習して取り組んでも、大きなタイトル戦の決勝では緊張してしまうときがありますね。麻雀時代は、焦ったことで細かい判断ミスをすることもありました。
そういった時は、なるべく姿勢を正して一定のリズムで動作をすることを心がけています。俯瞰して状況を確認しながら、早すぎず遅すぎず、一定のリズムで打つことで明らかなエラーは減りました。
これには一定のリズムで打つことで、こちらの手の良し悪しなどを対戦相手に悟らせないという意味合いもあります。
――プレイ中のリズムは意識したことがありませんでした! では集中力を維持するための対策はありますか?
「競技中に反省しないこと」ですね。人間なので、ミスをするのは仕方ありません。重要なのは、ミスをした後のプレイです。プレイ中に犯したミスを気にすると誘発して悪循環へと陥ってしまう可能性があるので、ゲームが終了した後にゆっくり検証をするようにしています。
また、カジノでポーカーをする場合は、一度帰宅して仮眠したりもします。毎日ポーカールームで稼いで生活をしていくのであれば、疲れていたりお腹が減っていたり、テーブルの状況が悪い中でも成績を出し続ける必要があります。でも、1時間だけ集中してプレイするのは誰でもできる。どうしても集中力が落ちて疲れていると感じた時には無理をせず、切り替えることは重視しています。
データを突き詰めることで結果と自信を得た
――プロプレイヤーとして活動を続けていく上で、毎日、実践と座学を続けるには、相当なモチベーションが必要ではと思います。
堀内 麻雀の頃からそうだったのですが、確かにモチベーションの維持は難しかったです。調子が悪い時などは、どうしても意欲が下がってしまいますし。しかも、長期間にわたって自分の良いプレイングを維持するには、ハングリー精神も求められます。
ただ、僕の場合は「分析が好き」ということもあり、成績をきっちりと管理することがモチベーション維持につながると自覚できたのは大きかったです。
麻雀時代から意識的に成績管理をするようにしていて、ポーカーでも専用のアプリでセッションの記録や成績管理をしています。それによってゲームへの理解を深め、長期的な視点で勝ち負けを捉えるようになりました。
――堀内さんはキャリアの中で、スランプに陥った時期はあったのでしょうか。
堀内 麻雀時代には2年半ほど全然結果が出ない時期がありました。競技麻雀のタイトル戦は短期での結果を求められるので、なかなか思うように勝てずに歯がゆい気持ちになっていました。
スランプを抜け出すきっかけは、タイトルホルダーといった強者たちと一緒に集中してプレイする時期があり、そこで成績を残せたことでしたね。そこから、より自分の考える「データ麻雀」のスタイルに近づけていきました。データを元に、根拠のある打ち筋を身に着けていくこと。ミスが極端に少なくなり、結果として最高水準の成績を長期でキープし続けられるようになったのです。
麻雀もポーカーもゲームの特性上、短期で劇的に何かを変えるというのが難しく、不調が続くと弱気になる瞬間もあります。ただ、一打一打のすべてに理由を裏付けることが、僕にとっての自信へとつながりました。
勝負事においてメンタルは非常に重要で、勝敗に直結することもあります。僕がメンタルを保てているのは、日々の実践と座学の積み重ねによって自信の裏付けがあるからだと思っています。
■プロフィール
堀内正人(ほりうち・まさと)
1985年生まれ。元・日本プロ麻雀連盟所属で、元十段位。日本プロ麻雀連盟の第27期十段戦で十段位を獲得するも、2013年の第30期十段戦で失格処分となり、その裁定に疑義の声が多くあがった。2014年9月にはプロ連盟を退会し、その後はプロのポーカープレイヤーとして活動。著書に『令和版 神速の麻雀 堀内システム55』(三才ブックス)、『麻雀麒麟児の一打 鉄鳴き』(竹書房)などがある。
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