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画像:河本ほむらインタビュー レイズの瞬間を探れ
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河本ほむらインタビュー レイズの瞬間を探れ

役者や芸術家、ダンサーなど、クリエイターが素晴らしいアウトプットを世に送り出す時、彼らは“レイズ(=勝負に出る)”の瞬間をどのように見極めているのだろうか。今回は人気マンガ作品『賭ケグルイ』をはじめとするマンガ原作者・河本ほむらに話を聞いた。鬼気迫る心理戦や、裏の裏をかいたトリック。手に汗握る展開の生み出されかた、そして彼が原作を務めたメディアミックスプロジェクト『HIGH CARD(ハイカード)』の見どころとは。

キャラクターをいかにキャラクター自身の考えで動かすか

――河本さんのマンガ原作はスリリングな急上昇・急降下の展開があって、イチ読者として引き込まれます。読者の心を掴むための武器はやはり"どんでん返し"なのでしょうか?

"どんでん返し"も当初は重視していたのですが、それよりも最近はいかに"キャラクター"で攻めるかを意識しています。

――どれだけ奇抜なキャラクターを登場させるか、ということですか?

そういうわけでもないんですよね。厳密には、キャラクターをいかにキャラクター自身の考えで動かすか、がポイントになります。

ちょっと偉そうな話になっちゃうのですが......マンガ家志望の方の作品を拝見すると、しばしば特定のストーリーに沿わせるためにキャラクターがセリフを発していることがあるんです。でも、キャラクターが自分の考えで動いてくれないと茶番に見えてしまいます。これは自分が作品を作るときにかなり注意しています。

――なるほど。ではキャラクターが自由に動くために、河本さんが工夫していることは?

最初に細かく考えすぎないことです。僕の考えではありますが、細かく考えすぎるとストーリーの都合で動いてしまってつまらなくなりがちです。だから要所だけ決めて、あとはそれぞれのキャラに自由に動いてもらうようにしています。

あとは一つの展開が迫った時に、キャラクターへ「次はどうする?」と問うてみるんです。すると選択肢がいくつか出てくる。一つに絞ることは難しいですが、一番面白いと感じるパターンを僕自身が選ぶようにしています。

――そこで"レイズ"が生じているわけですね。じゃあ、キャラクターの次の行動に賭けた結果、予想を裏切られることも?

当然あります! 「変なことを言うね!」「そんなことしちゃうの?」みたいに、僕が予想してなかった言動が生まれることもあります。

――そうなると、だんだんストーリーがなし崩しになっていくリスクがありそうですよね。先が読めないというか。

だからこそ、完全なるフリーでキャラクターに動いてもらうことはあまりないです。ストーリーが破綻してしまわないよう「要所要所のポイントで何が起きるか」を決めることが僕の役目になります。キャラクターにはその範囲のなかで動いてもらうんです。

――その"要所"っていうのは、どれくらい大きなスパンで考えることが多いですか?

長期連載でマンガ何巻分にも及ぶような大きなシーンを作る時は、シーンごとにポイントを作ってはいます。『賭ケグルイ』ではこのフェーズでどういうゲームをして、どちらがどうやって勝つか、までを大雑把に決めることが多いです。そのなかで、あとは自由に面白く動いてもらうのみです。

"最終工程がより良くなるようなイメージ"を練る

――展開の枠組みそのものも作品の"面白さ"と深く関係しているようにも思います。事前にポイントを作り、勝負する瞬間を見極めることは、いつから意識されるようになったんですか?

プロデビュー前にWebマンガの投稿サイトで作品を自主的に発表していた頃からです。アマチュアだから時間をフル稼働できるわけでもないので、当時は「6ページ書いたら更新する」というルールを自分の中で決めていました。

ただ、何も考えずに6ページ用意しても「何も起きてねえじゃねえか!つまらん!」って読者に怒られるわけで(笑)。6ページのなかで面白い事を一つ考える、というルーティンを繰り返していたら、自然と身につきました。短いスパンのなかに面白いポイントを作り飽きさせないようにする、というのは売れている人ほどやっていると思います。

――あえて積極的に縛りを設け、自身が攻める状況を作り出していたんですね。面白いポイント、でいうと『賭ケグルイ』はページをめくった時に登場人物がすごい顔をしていることが多いですよね。

確かに『賭ケグルイ』は顔芸もツカミですね()。「えっ」って思ってもらうポイントになります。作画の尚村透先生のおかげで、僕が想定する以上のシーンが増えています。尚村先生がアドリブを効かせた結果、美少女が鼻水出してたり()

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▲『賭ケグルイ』(原作:河本ほむら・作画:尚村透)第3巻より。大金がかかった"賭け"を前に、美少女が顔を醜く歪ませるシーンもしばしば。
©︎Homura KawamotoToru Naomura/SQUARE ENIX

――たとえばマンガの場合、ネーム(構成案)上でどこまで厳密に描写の指示を出すんですか?

僕が考えるよりも次の人(マンガ家)が考えた方が面白くなりそうな部分は、できるだけ全て任せています。たとえばコマ割りの構図や表情の描き分けなどは、僕がやるよりもマンガ家さんにお願いした方がいいと思っています。僕は最終工程をその人に任せつつ、自分の出来る限りで"最終工程がより良くなるようなイメージ"を練ります。

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▲河本さんの作成するネームの一例。

――そこには純粋な信頼が? それとも才能にベットする感覚もあるんですか?

信頼8割・賭け2割ですね。賭けといっても、想像を超えてくれるのでは......という期待を込めた"賭け"になります。『グレイテストM~偉人麻雀大戦~』(以下『グレイテストM』)の作画・山田秋太郎先生も、ネームで書いた僕の指定からアイディアを汲み取って、思いきり印象的なシーンに変えてくださっています。とてもありがたいです。

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▲『グレイテストM~偉人麻雀大戦~』(原作:河本ほむら/武野光・作画:山田秋太郎)第1巻より。歴史上の偉人たちが"次代の神"の座を争い麻雀卓を囲む。偉人たちの生み出す "雀技"が勝負の見どころ。
©︎河本ほむら,武野光,山田秋太郎/小学館

「これ、本当に面白いの?」という疑念は一生つきまとう

――そもそも読者が「面白い!」と思うことを仕掛けるには、書き手自身の中で面白い/面白くないの線引きが明確じゃないと難しそうですよね。

"自分が面白いと思うか否か"は確かに重要ですね。最終的には受け手の感想が重要なのですが、受け手の反応なんて蓋を開けないと分かりません。だからこそ、まずは自分自身の判断に委ねられると思います。

よく、自分が受け手の立場になった時のことをシミュレーションし、プロットを練ることはあります。自分がマンガを読んでいる姿や、アニメ映像を観ている時。それを俯瞰で想像して、面白さをわかりやすく伝える方法を模索するんです

――受け手の立場になることで、攻め/守りを判断する。テキサスホールデムでも活かせそうな発想ですね。でも、自分が面白いと思っていたアイディアがコケるリスクもあるじゃないですか。そこで一歩踏み込んで"ベット"することへの不安はありませんか?

もちろん不安ですよ! 「これ、本当に面白いの?」という疑念は一生つきまとうと思います。でも自分を信じるしかないです。ましてや連載などは時間との戦い。制約があるなかで、考えられるだけのことを考える。そこが創作活動の面白さです。

――なるほど。ではその"面白い"の判断力を育むために、普段から意識することは?

「これをマンガにどう取り入れたら面白いか?」を考えながら、本や映画などの資料に触れることはあります。推理小説からストーリーの基本構造を参考にすることもありますし。ただ、日常的なふとした経験から発見することも多いですね。たとえば、自分が何かを勘違いしてしまった時の状況などは参考になります。「なぜ自分は勘違いしちゃったんだろう」って考えたところに、トリックが隠されているというか。

――『賭ケグルイ』でのトランプゲームによるギャンブルや、麻雀をテーマとした『グレイテストM』の対戦シーンでも、相手の勘違いを誘発するようなブラフ(ハッタリ)やトリックが登場しますよね。河本さん、カードゲームやボードゲームがお得意なのでは、と思ったのですが......?

実はそこまで深くはやっていないです。学生時代も周りに麻雀をやっている友人は多かったのですが......正直、自分が結構のめりこみやすいタイプなんです。テキサスホールデムも、本気で始めたら仕事をしなくなります(笑)。

そして僕がプレイヤーなら、どちらかといえば"攻める"よりも"慎重派"になりそうです。理屈で動きすぎてチャンスを逃すタイプなんですよね。

"エンタメ"という軸で、今までの活動は全て同じ

――河本さんは、今年6月に始動したメディアミックスプロジェクト『HIGH CARD』に、弟の武野光さんと原作者として参加されていらっしゃいますよね。登場するキャラクターのメインビジュアルが発表されていますが、どのキャラも個性が強くて魅力的です。

キャラ設定は一緒に原作をやっている弟の武野光、そしてトムス・エンタテインメントの皆さんと一緒に作っていきました。実は2年ほど前にプロジェクトがスタートしたのですが、ここまでキャラクター設定、特に世界観を詰めたことはなかったです。全員が「それいい!」となるよう、かなり長い時間をかけて緻密に作っていました。

――どうやって意見をすり合わせていったのでしょう?

「なぜこれがいいのか」という理屈を突き詰めていきました。当然好みもあるので意見が食い違うこともありましたが、こだわりなく作られたキャラクターは一人もいないのは事実。ぜひ楽しみにしていただきたいです。

――ちなみに、登場人物の中でご自身に一番近いキャラクターは?

自分に一番近いキャラは......主要人物はみんな格好いいのでいないですね(笑)。

――なるほど(笑)。では、今回のメディアプロジェクトのタイトルでもある"ハイカード "は、テキサスホールデムで"何の役もない五枚の組み合わせ"、ノーペアのことをさしますよね。河本さんから見て、一番テキサスホールデムが強そうなキャラクターを教えてください。

ぜひ今後のメディア展開を追いかけて確かめてみてください!『HIGH CARD』、とにかくイラスト関係を担当されているえびも先生のイラストが最高過ぎるので、隈なくチェックしていただきたいです。れおえん先生の設定画もそう。ドラマCDが現在は出ていますが、キャストの皆様の演技も本当に素晴らしいです。

僕と武野のことは置いておいて、才能溢れる方々の本気が結集して『HIGH CARD』はこれからいろんな展開をしていきます。長い時間をかけてお披露目されていくので、ぜひ追いかけていただきたいです。

――ありがとうございます。最後に、『HIGH CARD』はメディアミックスプロジェクトの原作、という意味で、河本さんにとっても新たな試みかと思います。これからの活動でどういったことにレイズして(チップを賭けること)いきたいか、教えてください。

基本的にアウトプットがマンガであれアニメであれ、"エンタメ"という軸では、今までの活動は全て同じなんですよね。冒頭でも言いましたが、結局は「受け手が楽しむこと」を生み出すことを目指しているだけです。

最近YouTubeも始めたのですが、これからも新しい表現やエンタメに関わるための手段はなんでも、まずはやってみたいと思っています。エンタメの表現が好きで、結局面白い表現が何でも好きということです。使える手段は何でも使って、いろんな形で作品づくりをしていきたいです。

ライター/高木 望

■プロフィール

河本ほむら

マンガ原作者・作家。アマチュア時代、2009年より牛乳名義でWEBマンガを新都社(にいとしゃ)にて執筆。2013年にガンガンJOKER新人漫画賞でネーム部門奨励賞を受賞し、「賭ケグルイ」でデビュー。ガンガンJOKER(スクウェア・エニックス)にて20144月号より連載中。司法試験合格歴あり。

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■HIGH CARD

原作はトムス・エンタテインメントと、人気漫画『賭ケグルイ』の原作者である河本ほむら、武野光のコンビが担当。
キャラクターデザインを人気イラストレーター・えびもが務め、コンセプトアートは、スマホアプリ『アークナイツ』のキャラクターデザインなどでも注目の人気イラストレーター・れおえんが担当する。
トムス・エンタテインメント×KADOKAWA×サミーが送るメディアミックスプロジェクト『HIGH CARD』始動!

トムスショップでドラマCDやグッズが発売中

<スタッフ>
原作:TMS×河本ほむら×武野光
キャラクターデザイン:えびも
コンセプトアート:れおえん
カードデザイン:BALCOLONY.

<キャスト>
フィン・オールドマン:佐藤元
クリス・レッドグレイヴ:増田俊樹
レオ・コンスタンティン・ピノクル:堀江瞬
ウェンディ・サトー:白石晴香
ヴィジャイ・クマール・シン:梅原裕一郎

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@highcard_pj

© TMS

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