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画像:六角精児インタビュー(後編)レイズの瞬間を探れ
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六角精児インタビュー(後編)レイズの瞬間を探れ

役者や芸術家、ダンサーなど、クリエイターが素晴らしいアウトプットを世に送り出す時、彼らは“レイズ(=勝負に出る)”の瞬間をどのように見極めているのだろうか。前編に続き、舞台からドラマ・映画、ナレーションなど、さまざまな現場で活躍する俳優・六角精児に話を聞いた。 自分、そして相手役の共演者のコンディション、観客の集中力――さまざまな不確定要素が混ざり合う演技の世界。そのなかで間合いをコントロールし、一言で観客を没入させる“レイズ”の瞬間、彼はどういったアクションを起こすのだろうか。

最低限のことをできずに、イタズラ心を出すのは芝居に失礼になる

――前編では、六角さんが舞台に立たれる際の"レイズの瞬間"について話を伺いました。そのうえで「しっくりこないことへあえて挑戦してみようかな」というマインドは、ポーカーのレイズする瞬間と通じるように思います。攻めよう、という感情が動くのはどういった時ですか?

時間的な余裕があって、かつ人に迷惑をかけないときですね。映像だと長回し(カメラを途中でカットせずに、長時間回し続ける事)のシーンでそれをやったら、自分のせいでNGになるリスクがある。自分の塩梅で状況を判断して「この共演者の中だったら、ちょっと変えてやろうかな」とイタズラ心が芽生えることが多いです。

舞台だと、その日の自分のテンションも関係します。最近は疲労も影響してきて、夜だとクタクタになっちゃう。自分の体力と相談の上でなんとか成立させるようになりました。疲れている時はそんなに「ちょっと変えてやろう」みたいなイタズラ心はあまり芽生えないし。

――なるほど。最低限のことができたうえで、余裕がある時に攻める、ということですね。確かにポーカーと違って、お芝居では自分以外の共演者に迷惑がかかるリスクがありますからね。

そもそも自分が最低限のことを上手く出来てないのに、イタズラ心だけ出すのは芝居に失礼になる。だから自分がある程度やれている時、あるいは自分で良いと判断したときにほんのちょっとだけ入れる程度です。

アドリブも共演者が気心知れた人だったら仕掛けますが、自分が仕掛けたことでペースが乱れたりしたら、相手に申し訳ないじゃないですか。やるとしても「ちょっと今日こういう風にするかも......」と一言共演者に伝えますね。

――そこまで慎重に準備して、なおアドリブを差し込むのはどういう時ですか?

公演を重ねる中で、ふと「こういう風にしたらどうなるんだろうな」って思いついたときです。いきなり変えたり、アドリブを交えることって基本的にはルール違反ですから。

客席の呼吸を操作するのが役者側の役割

――台本上に無い言葉や行動をいつ、どう出すか。緊張感を伴いそうですね。

でも心理的なところでいうと、ポーカーの心理戦の方がもっとヒリヒリしてるんじゃないですか。自分の動きから手札が見抜かれる。それが凄いですよね。

わざと自分を認識させた上で、それを逆手に使う場合もあるでしょう。だから演技力や人の観察力も試される。さらには天運まで。麻雀と一緒で、上手そうな人と下手そうな人がはっきり分かれるゲームだと思います。いやあ、でもポーカーやる人って凄いなと思って。

――凄い......のでしょうか?(笑)

凄いですよ。だって、ぜんぜん違う世界で生活している人たちといきなりプレーする訳でしょ(笑)。自分はポーカーをやったことはないけど「自分が下手くそだ」って伝わった瞬間に勝負が決まりそうじゃないですか。大人数でやるからこそ役も決まりにくいだろうし。その上でどう演技を駆使しながら戦っていくか。だからシビれるんでしょうね。

――六角さんは趣味で麻雀をされていますが、そういったゲームのヒリヒリ感をお芝居中に感じることはありますか?

芝居だと、誰かが大きく外れたりしたら戻れないから、大前提のルールを全員が守る中で行われる。もしめちゃくちゃなことをしたらもうおしまい。だから、舞台とゲームのヒリヒリ感は種類が違うようにも思います。

きっとお客さんの有無も関係しているはず。自分自身を相手に隠すポーカーと、自分を表現してお客さんに見せる芝居。誰かに見せるか/見せないかという違いが、緊張感のベクトルを分けていると思うんです。

――ではお客さんの存在が、六角さん自身の"次の一手"に影響を与えることは?

ありますよ。例えば舞台なら、日曜昼公演と金曜夜公演では空気が全然違う。会場へたどり着くまでにお客さんが何をしてきたかによって、ステージへの集中力も変わってきます。

もちろん各々のお客さんがどういうことを考えながら舞台を鑑賞しているか、までは具体的にわからない。ただ、息遣いや笑い声、空気感は伝わります。「今日はちょっと散漫かな」とか「集中力が高いな」みたいなコンディションは分かるんです。

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――そのコンディションによって演技のアプローチを変えることも?

そういうわけじゃないんですよね。むしろ、その客席の呼吸を操作するのが役者側の役割。会場の空気を操っているようなイメージになるのかなあ。理想としても、そういう風になりたいですし。

ただ、お客さんの反応を見て自分の意のままにコントロールできる、と判断できた時は「よし、ここで急にひやっと締めちゃうか」ってアプローチを変えることもあります。

――お客さんがどういう状態だとアプローチを仕掛けやすい、といった傾向はありますか?

例えばお客さんに集中力があって、1?2分喋らなくてもお客さんは観てくれるだろう、と感じる時とか。そういう瞬間は気持ちがいいですね。逆に劇場の空気が煮詰まって、上手く活性化されていない時は、"長い間"というト書き(台本上の演出指示)があっても、無理ない範囲で切り上げたりもします。

振り返る時間があるのは、まだまだ先に進める証拠

――お客さんの集中力やコンディション、という意味では公演の種類も影響しそうです。六角さんの所属する劇団扉座での公演か、プロデュース公演(プロデューサーが作家や演出家、役者を起用し行う舞台演劇)か、ではどういう変化がありますか?

劇団は、お客さんも含めて"長い付き合い"になるからね。劇団は舞台も客席もお互いに歳を取ってきて、そこで繰り広げられているものがある。良し悪し以前にしみじみと出来るんです。逆にプロデュース公演だと、訪れるお客さんの目的がバラバラ。公演ならではの表現が試されるからこそ、より一層プロフェッショナルにはなります。

――馴染みのあるプレイヤー同士で卓を囲むか、それともトーナメントで初めての人と当たるか......みたいなニュアンスに近そうです。これから六角さんの所属する劇団扉座も、これから40周年記念公演がありますね。

40周年の舞台に挑む気持ちは、自分も周りの雰囲気もまさに"お祝い"ですね。「おめでとう、おめでとう扉座!」とお祝いの気持ちをもって挑みます。おめでとうと思いながらやるお芝居なんて、なかなかないですよ! 僕は多分初めてです。本当に感慨深い。

――本当におめでとうございます! そもそも、六角さんが扉座に入り、役者としての道を進もうと思ったのはなぜだったのですか?

いや、それが流れで誘われて入ったもんだから、気がついたら後戻りできなくなってたんですよ。優柔不断に続けていた中で、気がついたらこれしか道がなかったんですよね。ただ、芝居に対して熱量が高いほど、いろんな挫折もある。僕はそもそも演劇に何かを求めていたわけじゃなかった。だから続いたのかもしれない。珍しいタイプだと思います。

――そこで、人生のオールイン(大選択)を迫られるような瞬間はあったんですか?

うーん、それはないんですよね。強いて言えば、劇団じゃないところで芝居をやりはじめた時には本当に厳しい世界だと感じました。湾の中で泳いでいる魚が外洋に出た時に、もっと大きな魚がいるということに恐れおののいて、一回は本気で辞めることを考えました。多分20代終盤?30代手前くらいの時期だったと思います。

ただ、その時は既に大学も中退しているし、なんの資格もなかった。何も知らないなかで、比較的知ってるのはお芝居だった。だから続けてみようと思いました。岐路だと思って周りを見回しても、道が無かったんですよ(笑)。

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――他の道が無くても、お芝居という大きな道だけは1本残っていたということですよね。

大きな魚は大きな魚なりに一生懸命悩んでることもあるんだと気づけたのは大きかったです。魚の大きさが違うなりに、その世界でやっていくにはどうしたらいいのかを考えるようになりました。同じ舞台に立っていても、それぞれの人生のステージは違う。その辺のこともちょっとずつわかるようになってきたんですよね。

ただ、若いうちはいろいろな選択肢を持とうとした方が良い瞬間もあるなとはつくづく思います。自分の伸びしろを考えて、それを信じながら挑戦してみることは絶対に大切だし、自分のやりたいことを思いっきりやることが道に繋がることもある。何か自分を試すようなことは20代?30代のうちに沢山やった方が良いと思います。

やっぱり50代後半になると、過去のことを振り返る時間がけっこう長いです。でも、振り返る時間だけじゃなくて、まだまだ何かを試す場所やチャンスもある。お芝居の道は、需要がある限り進んでいきたいです。

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ライター/高木 望 写真/yoshimi

■プロフィール

六角精児

1962年生まれ、兵庫県出身。主な出演作に、ドラマ『おちょやん』『華麗なる一族』、映画『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』『前田建設ファンタジー営業部』『すばらしき世界』など。善人会議(現・扉座)旗揚げメンバーとして主な劇団公演に参加。劇団扉座40周年記念公演 『ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-』が12月5日厚木市文化会館、12月7日より19日まで新宿・紀伊國屋ホールにて上演。

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