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六角精児インタビュー(前編)レイズの瞬間を探れ
役者や芸術家、ダンサーなど、クリエイターが素晴らしいアウトプットを世に送り出す時、彼らは“レイズ(=勝負に出る)”の瞬間をどのように見極めているのだろうか。今回は、舞台からドラマ・映画、ナレーションなど、さまざまな現場で活躍する俳優・六角精児に話を聞いた。 六角が新たな役を身にまとって登場するごとに、その独特の間合いと存在感により、観客は不思議と目が離せなくなってしまう。場を掌握する“レイズ”の瞬間を、彼はどのように捉えているのだろうか。
第三の司令塔が「もっといけ」とささやく
――そもそも六角さんはドラマに出演する時と舞台に立つ時によって、間合いや言い回しなどの表現に違いはあるのでしょうか?
映像も舞台も、人の動きを見たり人の話を聞いたりすることで自分の身体や言葉が反応する、という点は同じです。ただ、共演者とどこまで演技を詰めていくか、というところで大きく変わってきます。
舞台の場合は緻密な稽古を重ねてから、自分がどういう風に演じるかをある程度決めるんです。ただ、上演期間中も同じことを繰り返す訳ではなく、なるべく新鮮なお芝居を見せていきたいので、毎回、共演者の演技を受け止める感情みたいなものが微妙に違うぶん、相手役の反応を常に咀嚼し、演出家さんや作家さんによる指示の範囲内で表現をアウトプットしていきます。
――その時、セリフの言い方や動き、次の一手を判断する"レイズ"の基準となるのはどういった要素ですか?
「それをやるべきかどうか」っていう判断は、客席と舞台上の自分の間にもう一つの「第三者の目」があるんですよね。客観の目、とも言うんですけど、そういうのが冷静に自分のことを見ているんです。それで「もっといけ」とか「もっと押せ」とかって判断をくだす。
――では、映画やドラマの現場ではいかがでしょうか?
カメラと相手役との間にいる第三者の自分が、やはり「すぐに言い返すもんじゃない」とか「間髪入れずに喋ろう」みたいな司令を送ってきます。
ただ、映像の場合は稽古をせずに共演者と演技をすることが多いので、相手役のセリフを聞いた時に自分がどう動くかは、本番まで不明瞭なんです。台本上でイメージしていた演技とは違うアプローチで相手のセリフが入ってくることもある。それに対し、第三者の目が指令を出す。自分がその場で初めて相手と会話する状況だからこそ、新鮮な演技が生まれます。
エネルギーの駆け引きが演技を面白くする
――その"レイズ"の瞬間を判断する、いわゆる第三者の目というのはどうやって育まれたんですか?
自分の中の自意識が変化したんですよね、きっと。「どうしたらいい芝居ができるか」を考えていくうちに、自分の演技を客観的に、冷めた目で見てるもう一人が生まれた。客観的な自分、どうしてもこれがいないとお芝居って出来ないんです。
その第三者の目は舞台だったら客席にいてもおかしくないし、映像の場合はこの辺(背後を指差す)にいるかもしれません。映像の方が自分との距離が近いかもしれない。
どちらにしても「なるべく新鮮な自分」を表現として見せるための存在です。あと、舞台の稽古では「そんなことしないだろ!」とか「あ?、ちょっと役から離れた」みたいなダメ出しも(笑)。その意見が出てくるたびに、台本に書いたりします。
――では表現で攻めてみて「上手くいった」と感じる瞬間はどういう時ですか?
共演者やスタッフに迷惑をかけずに、自分が「こういう風にやってみようかな」と思ったことがある程度出来た時ですね。あとは上演時間の中で自分は上手くいかなかったけど、芝居全体が面白かった場合は「まぁいいや」ってなることもあります。そういう点ではむしろ、昔より納得できることの方が増えたかもしれない。
――それはご自身が経験を積まれたから?
それもあるかもしれないけど、若い頃は自分のことばかり考えてましたから。今は自分が上手くいくよりも、相手役の演技が上手くいく方が嬉しかったりします。
あとは、すごく新鮮な気持ちで出来た時ですかね。たとえ少し台詞を間違えても、あとでリカバリーできる範囲内で良い表現ができた時は上手くいったと感じる。相手役とのセリフのやりとりでも、リハーサルとは違うものが生まれると嬉しい。作品に何らかの「風」が吹くと「上手くいった」なんでしょうね。ただ、あくまで演技に正解はない。究極は自分の達成感を求めていく形になるかもしれないです。
――共演される相手の役者さんが、六角さんにとって演技の鍵になっているのかなと思いました。
自分だけで成功させようとしても無理ですからね。やっぱり相手の台詞があって、その台詞を受け止めた時に発する言葉が一番ナチュラルだと思います。だから相手ありきだし、その相手の心を動かす引き金になるような言葉を、自分としては発していきたい。
覚えてきた台詞をただ言うだけなく、そこでエネルギーの駆け引きが生まれることが一番大切なんです。感情を込めたり、逆に感情を引いて無感情にしたり。自分の中の心の手綱を引いたり緩めたりすること。それを相手に見せることで、何が返ってくるか。
――「エネルギーの駆け引き」、とても興味深いです。そこで相手の心を動かし、賭けに出るためのヒントはどうやって得るんですか?
舞台なら台本の読み合わせでしょうか。そして演出家とのディスカッションや、稽古場での試行錯誤です。あらかじめ考えていたアプローチだけではなく、全然違う形のアプローチを試したり。納得できる演じ方だけだと面白くない。何かしっくりこない動きや感情、言葉をかけ合わせた時にどうなるか、なんです。
そうやってチャレンジする時って、自ずと慎重になるじゃないですか。そこで集中力が高まるからこそ、新たな発見を得たりする事はあります。だから、やりづらいことや苦手なことをあえてやってみることは大事なんです。
ライター/高木 望 写真/yoshimi
■プロフィール
六角精児
1962年生まれ、兵庫県出身。主な出演作に、ドラマ『おちょやん』『華麗なる一族』、映画『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』『前田建設ファンタジー営業部』『すばらしき世界』など。善人会議(現・扉座)旗揚げメンバーとして主な劇団公演に参加。劇団扉座40周年記念公演 『ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-』が12月5日厚木市文化会館、12月7日より19日まで新宿・紀伊國屋ホールにて上演。
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