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相手のハッタリを見破るには○○を見よ

テキサスホールデムをはじめ、将棋や囲碁などの高い思考能力を伴う「マインドスポーツ」にまつわるギモンを、専門家が紐解く連載「マインドスポーツアカデミア」。 今回は「相手の表情からブラフ(嘘、ハッタリ)を読み取ることができるのか」を、無意識に顔に現れる「微表情」について研究する清水建二氏に伺った。 アメリカではポーカーと微表情を関連付けた書籍や講座が販売されているというが、実際手札が回ってきたときの相手の心理を読み取れれば、試合を動かすための大きなヒントにもなるに違いない。では、目元や口元の微妙な動きから、どうやって相手の心情を読むのか。

――まず清水さんが研究されている「微表情」とはどういったものか、お教えください。

清水建二(以下、清水) 微表情とは、"抑制された感情が無意識に顔にあらわれては消え去る現象"のことを言います。

微表情には以下のような万国共通の7つの表情というのがあります。

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――笑ったり怒ったり、という普通の「表情」とは違うのでしょうか?

「表情」がはっきりと自分の意思を示すアクションであることに対し、微表情は無意識的に表れるサイン。検証や計測を含めた研究が進んでいく中で、微表情は約0.5秒というわずかな一瞬だけ表れることがわかってきました。

また、目が見える人も視覚障害者の方も、同じシチュエーションであれば同じように表れることから、学習による習得ではないとされています。そして、微表情はトレーニングを行うことでしっかりと読み取れるようになる、といった研究結果も出ています。

――微表情の研究は、どのような分野で利活用されているのでしょうか?

清水 「嘘を見抜く」といった観点以外にも、ビジネスでの交渉の場面、最近では介護・医療関係者が患者や被介護者の気持ちを読み取るといった面などでも注目されています。今では医師や警察・司法関係者、軍や公安といった安全保障関連で、微表情の存在が認められ、活用されていますね。

もともと微表情は1960年代、医師が自殺願望のある人と向き合う中で発見された現象。ただ、その後は嘘研究などにも派生したものの、実際に"微表情"として実証研究が始まったのは、2000年頃と最近のことなのです。

微表情から垣間見える隠された感情

――微表情を読み取れれば、相手の嘘がわかったりもするのでしょうか? 例えばポーカーでは自分の手役が悪いとき、勝負に乗って相手を騙す「ブラフ」といった戦術があります。また、「ポーカーフェイス」という言葉がある通り、プレイ中の表情はゲーム上の重要な情報といえますよね。

清水 嘘が分かる......とまではいきませんが、微表情を読み取れれば、相手の隠された感情を暴くヒントが隠されていることがあります。私が教えている生徒さんにも日本のアミューズメントポーカープレイヤーとして有名な方がおり、その人から「微表情はポーカーで使える」という意見も聞いています。

ただし、その微表情が発せられた文脈を踏まえて、その理由などを推察する必要があります。つまり、ポーカーであれば、ポーカーのルールを知った上で、相手の顔に浮かんだ表情の意味を考えなくてはいけません。

――ゲーム中、対戦相手の微表情を読み解くポイントについてお教えください。

清水 それではポーカーの試合中、プレイヤーがどういった微表情を見せることがあるか、映像を観ながらお教えします。

しかし、先ほど言った通り、微表情の意味を読み解くにはその文脈が重要で、ポーカーのルールを知らないと正しく解釈できません。ここでは、動画の中に登場する微表情に焦点をあて、説明していきます。

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▲(1:24)ターン(4枚目のボードが開いたラウンド)に男性プレイヤーと女性プレイヤーが一騎打ちとなる中、男性はスリーカード、女性はノーハンド。女性はリバー(5枚目のボードが開く)で「3」が来ればストレートの役が揃う可能性もあるが、かなり厳しい状況でこの後にベット。

清水 このシーンでは、女性プレイヤーが唇に力を入れています。唇を強く結ぶのは、先に挙げた7つの表情ではなく、「感情の抑制」か「認知的負担の高まり」のどちらかです。「認知的負担の高まり」というのは、簡単に言うと、頭をフル回転させている時に出る微表情です。この場合は勝負に降りるか、ほぼ絶望的な状況でもブラフで勝負を続けていくのかを悩んでいる瞬間なのかもしれません。

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また、直後のこの場面で彼女は自分の顎を自分の腕に載せていますね。体の一部で自分の体や顔に触れることを「マニピュレーター」と言い、これは感情がざわめいた時に出るサインです。いわゆる「ざわ......ざわ......」って感じですね(笑)。嘘をついてるかどうかは関係なく、何かしらの感情がブレた時に出る仕草です。

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▲(2:53)男性プレイヤーはスリーカード、女性プレイヤーはノーハンド。男性が消極的なアクション(チェック)を取るのに対し、女性はブラフでオールインとかなりの攻めを見せる。

清水 この時、女性の片方の口角がもう片方よりも高く上がっており、これは「軽蔑」の微表情です。「軽蔑」を言い換えると、優越感を感じているということです。

女性側は男性が消極的なアクションだったため、自分の優位を感じてこの微表情が出たのかもしれません。

その後、この動画で女性プレイヤーは、口角が下がったり眉の内側だけが下がる「悲しみ」の微表情も一瞬見せます。

――男性プレイヤーがベットする素振りを見せたタイミングなどで「悲しみ」の微表情が出ているように思えます。確かに微表情を読み取れれば、相手の心理を推察する手がかりになりそうです。こうしたブラフや嘘をつく際に出やすい微表情はありますか?

清水 「嫌悪感」「軽蔑」「幸福」が出やすいとされています。「嫌悪感」は嘘をつくことに対する自己嫌悪で、「幸福」は騙す喜びとも言われています。ほかにも、嘘がバレるかもしれないので「恐怖」が出ることもあります。

また、7つの表情には含まれていないですが「罪悪感」の微表情も出がちですね。最近の研究では、先の例にもあったように「認知的負担」がより出やすいとも言われています。嘘をつく時はさまざまなことを考えますからね。

――ゲーム中にそうやって微表情を観察する時には、顔のどの部位に注目するといいのですか?

清水 研究論文では、口元の筋肉は食事や会話で普段から使っているため比較的コントロールしやすく、鼻から上の筋肉はコントロールしづらいと言われています。その筋肉はトレーニングしていないとコントロールできないので、抑制しようとしても動いてしまいがちです。なので、鼻から上、目元や眉の動きに注目してみると、何かヒントを得られるかもしれません。

――なるほど。時々相手に話しかけながら嘘やブラフを見破る手法も見受けられますが、そういったシーンでも活用できそうな気がします。では、どういった質問を投げかけると効果的に微表情を引き出せると思いますか?

清水 嘘検知の文脈では「反予測質問」といって、相手が予想もしていない質問をすると、感情が表情に出やすいとされています。特に匂いや音といった五感情報と絡めると反予測質問になりやすいですね。

例えば、昨晩レストランに行った、と話者が嘘をついているとします。「どこのレストランに行ったの?」「何を食べたの?」という問いは、話者の想定内である予測質問。そう聞かれることを予測し、話者も事前に考えているでしょう。しかし、そこで「レストランはどんな匂いだった?」や「どんな色の壁だった?」と投げかけると、話者は動揺するでしょう。

マインドスポーツで活用できるかは状況次第ですが、もし顔なじみの無い相手と対戦する際、相手が意図しない質問を受けた場合に、どういった表情で動揺するか、などをチェックするのに有効かもしれません。

また、まったく関係ない質問をするのではなく、相手が同じくらい緊張する質問でその範囲を絞っていく質問方法もあります。たとえば、3万円盗んだ容疑者に対して「あなたが盗んだのは1万円ですか?」というところから、1万円ずつ質問する金額を上げていくと、3万円の質問の時に微表情が出やすい傾向があります。

こうした手法をポーカーでうまく活用できるかはわかりませんが、ゲームを通じて、対戦相手の勝ってる時と負けてる時の表情の癖を掴むことが出来れば、有利になるかもしれませんね。

表情筋のトレーニングでポーカーフェイスも可能に?

――ここまでは相手の微表情を読み取る方法をうかがいましたが、反対に「ポーカーフェイス」として自分の微表情を隠すことは可能なのでしょうか?

清水 訓練をすることによって、微表情を抑制できる可能性が高くなることは事実です。自分が自在に動かせる表情筋を鍛えれば、その微表情は隠すことができると言われています。とはいえ、感情があまりにも高ぶりすぎると、なかなか抑制することは難しいですね。仮に表情を隠すことができても、声色やマニピュレーターといったボディランゲージに出てしまったりもします。

また、ネガティブな表情を「幸福」の表情で覆い隠そうとする「隠蔽化」という現象もあります。例えば、片方の口角が上がる「軽蔑」を見せないように、両方の口角を上げて「幸福」の表情を作ったりするんです。

微表情は完全には隠しきれませんが、相手からすると少なからず感情を読み取りづらくはなると思います。

――では、表情筋を鍛えるにはどうすればいいのでしょう?

清水 表情筋は40個ほどのパーツに分かれているので、その1つ1つを動かすトレーニングがオススメです。筋肉を個別に動かすトレーニングをしていくと、だんだんそれぞれの筋肉を動かせるようになってきます。鍛えていないと作ることが難しいハの字眉毛も、自分の意思で出来るようになります。

ほかにも、自分がゲームをしている時の表情を録画して、後で見返してみると自分には気づかなかった癖に気づくことが出来ます。自分の癖を知っていれば、いざ微表情を抑えようと思った時に抑えやすくなるはずです。

微表情は必ずしもゲームの正解を導くものではありませんが、少なくとも何らかの正解にたどり着くためのヒントの一つにはなるはず。微表情は自分にとって得るものや失うものが大きい時にこそ現れるので「ここぞ」という大きな勝負を迎えるときこそ、相手の表情に集中してみると良いと思います。

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■参考書籍『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)

■プロフィール

清水建二(しみず・けんじ)

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持し、メディア出演の実績も多数。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)などがある。

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