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甘いものだけを食べても脳は上手く働かない?

テキサスホールデムをはじめ、将棋や囲碁などの高い思考能力を伴う「マインドスポーツ」にまつわるギモンを、専門家が紐解く連載「マインドスポーツアカデミア」。 今回はゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』シリーズなどでも有名な東北大学加齢医学研究所所長・川島隆太教授に、ポーカーをプレイする際に脳を有効に働かせるために必要な習慣について、話を伺った。 将棋や囲碁の試合中、糖分を積極的に摂取する選手の姿を見受けられるが、彼らはなぜ糖分を摂るのだろうか? 脳を万全の状態でプレイするために本当に必要なこととは?

――まず川島教授の研究分野について、簡単にお教えください。

川島隆太(以下、川島) 大きな研究の柱としては、「人間の心が脳の中でどう表現されているのか?」ということを調べています。分子の働きから生命現象を解き明かす分子生物学的な研究から、脳の計測実験、または人間のモデルとして動物の機能や遺伝子調査なども行っています。

例えば、生活習慣を含め、子供の健全な脳の発達を促すために重要な要因を調べる「子供の認知発達支援」もそのひとつです。また、高齢者の認知機能を落とさずに健康長寿するための「認知症予防」に関する研究もしています。

――マインドスポーツでは脳を十分に働かせるため、競技中に甘いものを摂取する光景も一般的です。脳にとって糖分はどの程度重要なのでしょうか?

川島 我々は脳の中の神経細胞が働くことによって、ものを考えることが出来ます。この神経細胞にとって唯一のエネルギー源が、ブドウ糖とされています。そのため、ブドウ糖が枯渇した状態では脳はよく働かず、疲れた時には糖質を摂ると脳は働きが良くなる......と、10年以上前までは言われていました。

しかし、我々が研究した結果、集中力が切れた時に糖質だけを摂っても脳の機能はあまり向上しない、というデータが出てきました。つまり、ポーカーをプレイしている最中に、甘いものだけを食べても、それはただ太るだけの無駄な行為といえます。

――「糖分だけの摂取」に意味がないというのは意外でした! 脳と栄養の関係について、詳しくお教えください。

川島 ポーカーに必要な推察力や計算処理、認知機能は、脳の前頭前野が司る中でもワーキングメモリー(作動記憶)と呼ばれる能力になります。前頭前野の働きを担保するためには、ほかの栄養素と一緒に糖質を摂取する必要があるということが、実験データから証明されたのです。水とブドウ糖を溶かした糖液を飲んだ時は脳の活性度合いは低く、栄養調整食品や完全栄養食品では脳の働きが著しく活性化しました。

脳と糖分の関係_疲労感と集中度の変化グラフ.png

▲参照元:https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/balance/research/

つまり糖分だけでなく、栄養バランスの取れた食事をしなくてはいけません。作業の2〜3時間前に食事することによって、食後1時間をピークに食事による良い影響が約1〜2時間表れるとされています。総合的な栄養を摂るためには栄養補助食品に頼るだけでなく、食事の品目数、つまりおかずを増やすことが有効です。

――バランスの良い食事ということですが、どういった食材を意識するといいのでしょうか?

川島 前頭前野の活動には糖質だけでなく、脂質やタンパク質、そのほかいくつかの補助栄養素が必要だとわかっています。必須アミノ酸のリジンやビタミンB群です。リジンは豆類に豊富に含まれていて、ビタミンB群は豚肉からも摂れます。

ただ、バランスの取れた食事というのは、あくまでも前頭前野の働きを担保するための条件です。自身の持っている力を100%発揮するためのものであって、食事によってその力が200%になるわけではありません。

――反対に、摂取しないほうがいい食べ物はありますか?

川島 過度のアルコールを摂取すると、脳の情報処理能力は著しく落ちてしまいますが、実はほろ酔い状態だとかえって脳の機能が活発になることもデータからわかっています。

お酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人は飲むと寿命を縮めるだけなので飲まないほうが良いですが、酔っても顔が赤くならない人はほろ酔いのほうが良いパフォーマンスを出せるはずです。もっとも、そういう人はお酒を好きな方が多く、すぐにほろ酔いを通り越して泥酔してしまうので、あまりオススメは出来ませんが......(笑)。

――お酒を楽しみながらポーカーをするのも節度を持って、ということですね。

川島 ほかにも紅茶などに含まれるテアニンが脳に良い、とされる研究もありますが、少しエビデンスが弱く、紅茶を飲んだから脳が活性化するというわけではないと思います。

また、最近流行のエナジードリンクは、大きく分けて2種類あります。ひとつはカフェイン系で、カフェインによって覚醒度を上げるもの。カフェインは摂りすぎると体に害がありますし、日常的に摂取すると効きづらくなってしまうので要注意です。

もうひとつは、血糖値が上がりにくい糖質「パラチノース」配合のエナジードリンクです。普通のブドウ糖は血糖値は一気に上がってすぐに下がるのに対し、パラチノースは血糖値を緩やかに上げていき、上がった状態をしばらく持続させます。

――しかし、先ほどのお話では糖質だけを摂っても脳機能は向上しないということでしたね。

川島 正直、こうしたエナジードリンクや競技中に甘いものを摂取することで生じる影響は、プラシーボ(偽薬)効果が大きいと思います。つまり、「これをすることで効果がある」と思い込むことによって、人体にその影響が出てきているのです。それほど、人体というのは不思議なものなんです。

しかし、甘いものやブドウ糖を一気に摂取すると、血糖値が急激に上がり糖尿病予備群になってしまうので、やはりオススメはできません。

もし本気で勝負するのであれば、栄養バランスの取れた食品を食べたほうが良いですし、糖分が欲しいのであれば、血糖値の上昇が緩やかなパラチノースが配合されている食品を選び、摂取するのがいいでしょう。

オススメの脳トレは「料理」と「読書」

――しっかりとした食事をすることで前頭前野が働き、ワーキングメモリーを発揮できる、と。それでは、ワーキングメモリーを鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?

川島 ワーキングメモリーは、ヒトが作業を行うための記憶装置のこと。作業をするための机が広いほど、多くの並行処理が可能なように、ワーキングメモリーが活発であるほど、同時並行的で作業を行えるようになります。

ですが、トレーニングによって負荷をかけていかないと鍛えられません。何もしなければ20歳頃をピークに、その機能は低下していきます。ワーキングメモリーを鍛えたければ、やはり脳トレをする必要があります。

――日常の中で出来るオススメの脳トレはありますか?

私のオススメは、料理です。料理は先々まで予測しながら作業を同時並行で進め、時間管理まで行っています。究極の脳トレーニングのひとつといえます。

また、読書もオススメです。文章を理解するには、ワーキングメモリーの中に情報を入れておく必要があります。読書中は常にワーキングメモリーを使っていることになりますので、読書習慣というのは極めて重要なのです。

このように、普段からワーキングメモリーを鍛えておくことが、より良いプレイをするために何よりも有用な手段だと思います。

――ポーカーだけでなく、将棋や囲碁といったマインドスポーツ全般は脳をフルに使う必要がありますよね。プロのマインドスポーツ・プレイヤーが試合に挑む際、アマチュア・プレイヤーとで、脳の使い方に違いはあるのでしょうか?

川島 以前、囲碁の代表団体「日本棋院」と協力し、トップ棋士の脳を計測したことがありますが、プロ棋士は脳の使い方が一般の有段者とは違うことが判明しました。

一般の人は、脳の前頭葉を使って論理的思考をベースに一生懸命考えて碁を打ちます。一方、プロ棋士は頭の中に棋譜のデータベースがあって、これまで学んだ棋譜を画像として引き出して参照することで、ベストな手を選択していました。前頭前野以外の部位 が活発に働いていたのです。

つまり、一般の方が人間臭く碁を打ってるとすれば、プロ棋士はまさにコンピュータ的な脳の使い方をしていたといえるでしょう。

ポーカーは不確定要素が多い分、囲碁や将棋よりも複雑さが増しているので、どこまで有用かはわからないのが正直なところ。プロ棋士は、碁盤や将棋盤などの空間的な情報を画像として脳の中にしまうトレーニングを上手く積めてきた人たちといえます。

――ポーカーでもこれまで経験した盤面を画像データとして記憶することを意識すれば、相手のカードを推察する時やベットの判断をする際、役に立つかもしれませんね。では"コンピュータ的な脳の使い方"をするためにできるトレーニングはありますか?

日本人の身近なところでは「そろばん」が適しているとされています。熟達者は手が勝手に動くところまで鍛えられるわけですが、そろばんを使うことで、普段暮らしている時にはあまり使われないストラテジー(戦略)を使える脳になるのです。

――そして、バランスの良い食事、料理や読書など、しっかりとした生活を営むことが脳にとっては重要だ、ということですね。本日はありがとうございました!

■プロフィール

川島 隆太(かわしま・りゅうた)

東北大学加齢医学研究所所長。1959年、千葉県生まれ。専門は脳機能イメージング、脳機能開発研究、認知症予防。主な著書に『脳を鍛える大人の音読ドリル』『脳を鍛える大人の計算ドリル』(共にくもん出版)などがある。また、ゲームソフト『東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』といったヒットシリーズを生み出し、"脳トレ"ブームを巻き起こした。

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